タイ古式マッサージについて
タイ古式マッサージとは
タイ古式マッサージは、タイ王国の伝統医学として始まり、瞑想や修行を効果的に行うために用いられた施術法です。
元々は修行の一環として生れた技術で、時代とともに民間医療として親しまれるようになり、タイではおおよそ5割の人が、体調を整える為に積極的に用いているといわれるほどです。その効果は非常に高く、タイの病院では治療に取り入れられることもあります。タイ古式マッサージとは、タイ国内で幅広く知られそして施されてきたマッサージなのです。
施術者とクライアント(受ける側)の『二人で行うヨガ』とも呼ばれています。また、時間をかけて施術することで、受ける側だけでなく、施術者も『無我の境地』に近づく事が出来るといわれています。
タイ古式マッサージの流派
タイ古式マッサージを学術的にみると、王室マッサージと民間マッサージに分かれます。王室マッサージは国王に対して行うものなので、礼儀が重視され、施術の姿勢や形式が重んじられています。王室をまたぐ施術や、踏みつけるような動きはもちろん許されません。そのため、タイ古式マッサージの特徴ともいえる大胆なストレッチはなく、指圧を中心に行われます。
一方、民間マッサージはストレッチが多いことが特徴です。手や腕を使うだけでなく、膝や足、場合の依っては背中に乗ってストレッチを行う施術もあります。マッサージの技法そのものが多種多様で、その数の多さは世界中を見回しても類を見ないほどです。
民間には流派が数多く存在しますが、大きくタイ北部とタイ南部に分ける事が出来ます。タイ北部にあるチェンマイの寺院ワット・スアン・ドークを中心とした手法『チェンマイスタイル』では、筋肉の筋を引っ張るものが多く、タイ南部にあるバンコクの寺院ワット・ポーを中心とした手法『ワット・ポースタイル』では、ツボを押すものが多くみられます。
チェンマイスタイル(北部式)
チェンマイスタイルは、タイ北部にあるチェンマイを中心に広まったマッサージスタイルで、北部式とも呼ばれます。チェンマイスタイルの創始者は、シワカ・コマラバタイ伝統医学校をチェンマイに設立したシントン・チャイチャカン氏です。この医学校で教えられていたマッサージのスタイルが、チェンマイスタイルの始まりです。
チェンマイスタイルは、ワット・ポースタイルに比べるとより庶民的で、形式に囚われません。元々ランナー地方に伝わっていたマッサージのスタイルに、中国の指圧やインドから伝わったヨガ、アーユルヴェーダーなどを融合させたものと言われています。
タイ南部に比べると寒い北部地方のスタイルなので、筋肉を温めてから本格的な施術を行う必要があります。そのため、ワット・ポースタイルよりも時間をかけてマッサージを行い、2時間以上かかる施術が一般的です。また、指圧やマッサージを受けているよりも、ヨガのような体を伸ばす動きが多いこともチェンマイスタイルの特徴です。独特のリズムでゆったりと行うので、身体への負担が少なく、痛みを伴わない点が魅力です。局所的なこりや痛みの解消というよりも、ストレスの解消など、心身のバランスを整えるためのメンテナンスに向いています。さらに、タイ古式マッサージの醍醐味でもある、瞑想に入りやすい手法でもあります。
ワット・ポースタイル(南部式)
ワット・ポースタイルは、バンコクを中心に広まったマッサージスタイルです。バンコク式、または南部式とも呼ばれており、タイマッサージの中では世界的に知名度の高いスタイルです。この技法はワット・ポー寺院に隣接するマッサージ学校に期限があり、寺院で伝えられていた王室マッサージに、西洋医学や日本指圧等の要素が付加されながら現在に至っています。
施術は2時間ほどかかりますが、チェンマイスタイルに比べると短時間で完了するという特徴があります。ストレッチよりも指で圧迫するする主義が多く、現地ではかなり力強い指圧を体験する事が出来ます。最初は痛く感じることが多いようですが、指圧に慣れた方や男性には人気の施術です。
ワット・ポースタイルでは、まず親指で全身の『セン』と呼ばれらエネルギーの経路を押し、手のひらを使って全身に少しずつなじませていきます。このセンへの圧迫が、最も重要なポイントです。施術の手順はおおよそ決まっており、うつ伏せから始まり、横向き、仰向けになってから、最後に座った姿勢で施術が完了する、というものです。これにより、筋肉の緊張が取り除かれ全身残りがほぐされます。また、副交感神経が刺激されることで、深くリラックスする事が出来ます。
タイ厚生省スタイル(標準タイマッサージ)
タイに於いて、マッサージは国の経済を支える産業の1つです。そのため、政府も積極的にマッサージ師の育成に取り組み、独自のスタイルを開発しています。それが、タイ厚生省スタイルです。標準タイマッサージとも呼ばれます。技術の流出のため、タイ国籍を持つ人だけが講習を受ける事が出来ます。
このスタイルが、チェンマイスタイルとワット・ポースタイルを混ぜ合わせたもので、チェンマイスタイルの持つ独特のリズムと、ワット・ポースタイルの持つ指圧の技術を兼ね備えています。特徴は、親指による体のセンの指圧に加え、基本を押さえた大胆なストレッチも行うという点です。比較的安全で、施術が難しくないこともポイントです。
タイ古式ボディケアの施術効果について
タイ古式マッサージを基としたタイ古式ボディケアでは、体の歪みや筋肉残りからくる疾病、不順を緩和することが出来ます。施術を受けることで、頭痛や肩こり、生理不順、高血圧やアレルギー症状の改善、便秘や喘息等の改善が見込まれます。
老化を防止する作用
老化の原因の一つに、筋肉の『こり』があります。筋肉中の酸素が不足するとにゅうさんが生成され、乳酸により筋肉は緊張したままになります。これにより、肩や腰にコリが生まれます。
コリがある状態が続くことで、体内の血液循環が悪くなります。すると、体の隅々まで栄養や酸素が十分に行き届かなくなり、肌荒れや疲労感が残りやすくなります。また、神経の働きが鈍くなり、脳も正常に働く事が出来なくなります。
タイ古式ボディケアを行うことで固まった筋肉が柔らかくなり、溜まっていた血液が流れるようになります。体の隅々まで十分に栄養や酸素が届くようになるため、肩こりや等が改善します。また、新陳代謝が高まることで、肌のハリを取り戻すこともできます。
リラックス作用
筋肉にコリを生む原因として、長時間の運転やデスクワークでの猫背、運動不足等が挙げられます。コリから生まれる体の不調は、ストレスや体の冷えにつながり、自律神経を乱します。自律神経の乱れは不眠や生理不順、内臓機能の低下を招きます。
タイ古式ボディケアを行い筋肉のコリがほぐれると、自律神経の機能が正常に戻り易くなります。また、マッサージによる刺激が脳幹や大脳皮質に伝わると、副交感神経が優位になり、深いリラックス効果を得ることが出来ます。精神的なリラックスが自律神経のバランスを整え、免疫力をアップさせるのです。
呼吸への作用
日頃ストレスを感じていたり、疲れていると、呼吸が浅くなりがちです。不十分な呼吸は筋肉を緊張させ、その結果、乳酸や乳酸、リン酸などの酸化物質が体に溜まりやすくなります。これにより、老化や病気を招きやすい体質になります。
タイ古式ボディケアは、ゆっくりとした大きな動作が特徴であるため、自然と深く長い呼吸をする事が出来ます。そのため、十分な酸素を体に送り込むことができ、筋肉をリラックスさせることができます。
呼吸をする際は、息の吐き方に意識を向け腹式呼吸をすることで、より大きなリラックス効果を得ることができます。釈迦が悟りを得たときにも、長くゆっくりと息を吐く呼吸法『アナバーナ・サティ』によって深い瞑想状態に入りました。『二人で行うヨガ』といわれるタイ古式マッサージに於いても、施術者と、クライアントが共に腹式呼吸をすることで、深い瞑想の上体に近づく事が出来るのです。
歪みを調整する作用
骨盤は、長時間バランスの悪い姿勢を続けることや、けが、ストレスなどで徐々に歪んでいきます。この歪みは体にストレスを与え、筋肉のコリはもちろn、内臓疾患、神経痛や関節痛の原因になることがあります。
タイ古式ボディケアには、骨の歪みや、身体の左右のバランスを整える作用があります。身体の歪みが整えられることで、神経痛や肩こり、腰痛の解消などが見込めます。また、新陳代謝が高まり、脂肪が付きにくいくなり『痩せ体質』の獲得も期待できます。
心への作用
肌を誰かに触れられることは、『自分自身がここにいる』という自覚を促します。それにより人は、『自分には存在意義がある』という安心感をえることができ、不安や心配が和らぐきっかけになります。
肌と肌の触れ合いによって、子供であれば自分が愛されている事を認識しますし、大人であれば安心感を得る事が出来ます。お年寄りであれば、さみしさの解消につながるでしょう。こうした肌と肌の触れ合いが、体だけでなく心もリラックスさせてくれるのです。ただし、過度にクライアントに触れないようにしましょう。また、事前に施術してほしくない部位のことをヒアリングしておきましょう。もちろん、NGであればその部位に施術は行いません。ボディケアの主技でクライアントに触れるときは、常に『あなたに気配りをしています』という気持ちを忘れないようにしましょう。
タイ古式マッサージ~その起源と歴史~
タイ伝統医学の起源 シワカ・コマラバ
タイ伝統医学の起源は、2,500年ほど前のインドにあります。創設者は、インド仏教の偉大な聖人の1人といわれる。シワカ・コマラバ師とされています。シワカ・コマラバは、仏教の開祖である釈迦を中心としたサンがと呼ばれる僧侶の集団の筆頭医師であり、釈迦の主治医でもありました。そのため、医師としてだけでなく、仏教においても多くの功績を残しています。
シワカ・コマラバの誕生については、逸話があります。仏教の経典である『バーリ率』によると、彼は古代インドのマガダ王国でサーラヴァティーという遊女によって産み落とされ、ゴミダメに捨てられていたところをマガダ王国の王子であるアパイラーチャクマーン王子にに拾われて育てられた、と記録されています。名前のコマラバには、『王子に養われた』という意味があります。
タイ古式マッサージの起源は2500年前に遡り、シワカ・コマラバが、修行僧の健康と瞑想を深めるために作り出した手法にあるといわれています。これは、インドのアーユルヴェーダとプラーナ(生命エネルギー)の理論をヨガの技法と組み合わせた、二人一組で行うダブルヨガが原点といわれています。タイ古式マッサージはタイ王国の伝統医学として始まり、寺院で進化と発展を遂げてきた施術法なのです。
タイ伝統医学とタイ古式マッサージ
タイ伝統医学とは、タイで古くから定着してきた伝統的な医学のことです。仏教はもちろん、インドのアーユルヴェーダや中国の漢方医学など、様々な要素や考え方が積み重なることで発展しました。タイ伝統医学は、薬草医学、栄養医学、精神的修養、主技療法によって構成されており、タイ古式マッサージは手技療法に分類されます。
タイ伝統医学は、理論として作られてから何世紀もの間、技術や手法は文献として残されることはなく、人から人に伝えられてきました。しかし、17世紀にはヤシの葉に記されたものがあり、そこにはタイ古式マッサージについての記述が確認されています。この医学文献は、旧アユタヤ王朝の時代に首都で保管されていましたが、1767年のビルマ軍による侵略の被害で、そのほとんどが失われてしまいました。
チャクリー王朝ラーマ3世の時代である1832年その知識を絶やさないために、ワット・ポーに大学が設けられました。大学では、パーリ語や仏教の教理、占星術、文学、美術、医学が教えられ、侵略の被害を免れたタイ伝統医学についての文献の内容は、石碑に掘られて残されました。これは今でもワット・ポーにある医学展示館の壁にはめ込まれています。
石碑の中には、『セン』と呼ばれる人体のエネルギーラインだけでなく、その線上にある『ジュ』と呼ばれるツボや、ツボを押すことによる治療効果も詳細に記されています。ワット・ポーには、体の前面が描かれた石碑が30個、背面が描かれた石碑が30個の合計60個あり、タイ医学における重要な文献として大切に保管されています。
タイ古式マッサージの技術は寺院(ワット)で受け継がれ、今でもタイの人たちにとって体の不調を整える身近なものであり続けています。
タイ古式マッサージと仏教の密接な関係
タイ古式マッサージは、仏教と切り離して考えることはできません。それは、悟りに導くために深い瞑想法が、タイ古式マッサージ(僧侶たちの健康法)に発展したと男いう歴史があるからです。ここでは、タイの人たちが信仰する仏教についてせつめいしていきましょう。
同じ仏教であっても、タイと日本では信仰のルーツが異なっています。日本の仏教は、インドやチベットなどシルクロードを経て伝えられた大乗仏教で、出家したヒトだけでなく大衆が救われることを目的とした信仰です。一方、タイの仏教はスリランカやミャンマーを経て伝えられたテラワーダ仏教(上座部仏教)であり、戒律が厳しく、自分自身が解脱する(悟りを開く)事を目的としています。
仏教では、死後は生前行ったこと(カルマ)によって、次に生きる世界が決まります。この世には地獄、餓鬼、畜生、修羅、人、天という6つの世界(六道)があり、どの世界であっても苦しみはあるとされています。この6つの世界の中で生と死を繰り返すことを、輪廻と呼びます。この輪廻から解き放され、一切の苦しみから抜け出せる事を解脱と呼びます。仏教は、善行を積んで解脱するすることを一番の目標としています。
テラワーダ仏教では、『慈』『悲』『喜』『捨』の4つの心(四無量心)によって愛が構成されていると考えられています。タイでは、人口の大半がテラワーダ仏教を信仰しており、生活と仏教が密教に関わっています。街中を歩くと、黄色い衣を着た僧侶がいますし、早朝にはタンブンと呼ばれるお布施を渡す家族をよく見かけます。また、マッサージや治療をするという行為は、この四無量心すべてを実践することとされています。
タイ古式マッサージは、善行としての一面だけでなく、クライアントどちらにとっても、深く瞑想的な修行であるともされています。
タイ伝統医学の基礎知識
宇宙構成する4大要素
タイの伝統医学には、インド医学の考え方が織り込まれています。インドでは、宇宙は『地・水・風・火・空』の5大要素、中国では『木・火・土・金・水』の5大要素で構成されていると考えられていますが、タイでは『地・水・風・火』の4大要素で構成されていると考えられています。万物はすでにこの4大要素から成り立っており、人の体も例外ではありません。
人は、体の4大要素のバランスが取れているとき、どれか一つの要素が特に大きく表面化されます。これを『ジャオルアン」と呼び、人が本来持つ性格や性質でもあります。ジャオルアンは胎児の時から決まっていて、6歳ころまでは変化しないといわれていますが、その後の環境や育ち方などで変わることがあります。また、ジャオルアンによって体質なども変わってきますので、それぞれの要素を確認しておきましょう。
プラーナとセン、ジュッについて
タイ伝統医学では、人は、『体、精神、エネルギー』の3つで構成されていると缶和えられます。『体』は4大要素に、『精神』は心や思考、記憶に関係しています。そして、体の中の流れや各機関の働き、感覚を管理するものが『エネルギー』です。『エネルギー』は『プラーナ』と呼ばれ、センと呼ばれる経路の中を流れています。
センを通るプラーナの流れには、体の生理とエネルギーの中心である臍部から末端へ流れるものと、末端から臍部へ戻る2つの方向がある。タイ伝統医学では、このセンの中を流れるプラーナに刺激を与え、各器官の働きを良くすることで精神によい影響を与える事が出来ると考えられます。
ヒトの体には10本の主要なセンがあることがわかっており、臍部から各感覚器官や生殖器官、排泄器官をつないでいます。このセンの上には『ジュッ』と呼ばれるツボがあり、そこに刺激を与えることで様々な症状を回復、改善する事が出来ます。
そのほかに、72000本ものナーディーと呼ばれる体内エネルギーの網があり、それによってプラーナ―が全身に行き渡ります。