脱臼という用語は、正常な関節面相互の解剖学的位置関係を失っている状態を表している。
基本的には関節構成組織損傷で述べた組織と、同一組織に損傷の可能性がある。
関節が脱臼状態にある場合には、骨と骨の位置的異常のみにとらわれるのではなく、損傷されている組織検索に重きをおくことが重要である。
また、損傷の重症度を表す判断として扱われ、「捻挫」は軽度で、「脱臼」は重症と安易に理解されていることが多い。
定義と概説
脱臼とは、『関節を構成している関節端が解剖学的状態から完全または不完全に転位して、関節面の生理的相対関係が失われている状態』をいう。
脱臼には、外傷性脱臼、先天性脱臼、病的脱臼などの区別があるが、基本的に外傷性脱臼を記す。
外傷性脱臼は、『外力により関節がその生理的範囲以上の運動を強制された場合、関節端の一方が関節包を損傷して、その裂口から関節外に出た状態をいう』と定義されている。
すなわち関節包外脱臼である(例外として顎関節脱臼、股関節中心性脱臼などは関節包内脱臼)、脱臼の発生は、外力の強弱に左右されることはもちろんであるが、関節の構造にも重要な関係がある。
発生頻度
脱臼発生の頻度は部位によって異なるが、年齢、性別によっても差異がある。外傷を受ける機会の多い青壮年男子、特にスポーツ選手、肉体労働者に多発し、また顎関節脱臼を除いて男性は女性の4~5倍に及んでいる。
小児と老人に比較的少ないのは、同じ外力が加わっても、この年齢層では骨折を起こすためである。
脱臼では、靭帯損傷の少ない関節に多く、中でも肩関節に多発する。一般的には肘関節、顎関節、肩鎖関節などがこれに次ぐとされている。
脱臼の分類
脱臼は関節の性状、脱臼の程度、関節相互の位置、脱臼数、脱臼部と創部との交通の有無、外力の働いた部位、脱臼の時期、脱臼の経過、脱臼の頻度と動機などにより分類する。
a)関節の性状による分類
1)外傷性脱臼
外傷性脱臼は、正常な関節に外力が働いて、生理的範囲以上の運動が強制され、関節端の一方が関節包を損傷して、その損傷部から関節包外に出たものであり、その際、直接脱臼部に働く力を直達外力、間接的に働く力が介達外力である。
また、急性に発生するものがほとんであるが、overuseなど亜急性に発生するものもある。
これは比較的軽度の外力が繰り返し作用し、関節を設定する際、腱、靭帯、関節包が弛緩伸長して脱臼するもので、野球投手に発生するloose shoulderなどがある。
2)病的脱臼
関節に基礎的疾患があって、関節を構成する組織の病的変化にによって、外力なし、あるいは正常な関節なら脱臼が起こりえないようなわずかな外力によって発生するもの。
関節包の断裂はない。
①麻痺性脱臼:関節を制御する筋の弛緩性麻痺により、関節を固定筋、靭帯、関節包が弛緩伸長して脱臼する。片麻痺患者の肩関節不全脱臼など。
②拡張性脱臼:関節の急性、または慢性炎症により関節内に炎症滲出物が多量に貯留したため関節包が拡張して脱臼する。急性化膿性股関節炎、股関節結核など。
③破壊性脱臼:関節包や関節体の破壊によって脱臼する。関節リュウマチによる手指の脱臼変形など。